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やることが全くなくて暇すぎた正月だったので、映画館で見てきました。
本編の中核であるアマプラ配信の実写ドラマ版は完走済。こちらは改変部分に気になるところは若干あるものの
(主に「東京ブレイド」関連)、概ね原作の魅力を十二分に描いた良作ドラマとして自分は評価している。
本作は、原作の序章を描く前半パート、第9・10章と最終章を一気に描く後半パートの合計4章分を題材にした、
実写ドラマ版のはじまりと終わりを描く特異な構成となっている。
配信されたドラマ版の最終章という部分が公開直前になって発表されたことで、
見る前の印象はかの「仮面ライダーディケイド」の最終回を映画化と当初は宣伝した
「MOVIE大戦2010」のように見えてしまいあまり良くなかったのだが、
いざ見るとこの構成は全く悪くなかったので驚かされた。
この構成にした利点は2つあると感じた。
1つは、原作でも映画として描かれた終盤を象徴する劇中劇
「15年の嘘」が劇中通り実写映画として描かれて説得力を持たせたこと。
2つ目は、ドラマ版を特に見ていなくても最低限の内容が理解できること。
この映画から「推しの子」に触れるのは意外とアリなのではと思える内容だったのだ。
復讐相手に辿り着くまでの過程が知りたければ当然ドラマ版が必須ではあるし、
かなやあかね等の多くのメインキャラも全く説明なく登場するので決して推奨するわけではない。
しかし、物語のはじまりと終わりをだけ描いても「推しの子」という作品が成立しており、
入口としても問題ない作りになっていた。これはスタッフの見事な手腕だったと思えてならない。
序章の直後に「15年の嘘」が描かれていることで、「15年の嘘」の内容の詳細はもはや成されているも同然であり、
実際映画の撮影中に序章のシーンや台詞とリンクする演出が多々ある。
この事実から、映画の内容や流れが原作以上に分かりやすいのである。
また、どちらのパートも原作では描かれなかったけど裏でこういうことがあったのだろうという部分まで
きっちり補完されている。
具体的には、アイやカミキに関する原作になかった会話シーンが描かれており、二人に受ける印象が全然違ってくるのである。
しかし、なんといっても見事だったのは結末だろう。
かつて原作を最後まで読み終えた感想記事にもまとめたが、原作のラストはあまりにもお粗末の極みだった。
一方の本作も結末に至るまでの大体の流れ自体は一緒ではある。しかし、
要所で別物になっているにも関わらず、原作より大分良い着地と思えたのである。
具体的には次のような形に改変されていた。
①ルビーを殺そうとアクアの前でカミキが脅しかけ、カミキの外道さと醜悪さが上がっていた
②アクアとカミキの心中はルビーが殺されかける光景から焦ったアクアの衝動的な思いつきによるもので、あかねに示唆するような言葉も事前に告げずに計画性が全くない流れになっている
③最終的に2人の遺体が海の底に沈んで発見されなかったことで、事件ではなく事故の流れになった
以上の事実から、原作よりはまだ自然な流れでのアクアがカミキへ引導を渡していた。
結局アクアが幸せになれなかった事実は変わらないものの、
それでもこの流れならアクアはこうせざるを得なかった、と思わせる説得力は間違いなくあり、
それだけで自分の中で本作は満足行くものになっていた。
細かい部分でなら、映画のB小町の挿入歌がアニメに負けない良曲揃いであったり、
「15年の嘘」でルビーの演じるアイがアイ本人と見間違えるほど瓜二つなビジュアルな所も素晴らしかった。
ルビーを演じる女優さんが映画館のスクリーンで非常に自分好みの見た目だったなと思ってしまったほどで、
原作でそこまで好きではないルビーにそれだけで好感度が上がったほどだった。斎藤なぎささん、名前覚えましたぜ…。
俳優繋がりで語るならば、カミキを演じた二宮さんは「暗殺教室」だと殺しを全肯定しながらも
生徒の命をこれでもかと大切にする殺せんせーを演じていただけに、ギャップが凄まじくて素晴らしかったね。
反面、原作以上に物語展開に無理のあるものがあったり、解釈違いと思えた部分もあったのも事実。
どちらも前述のラストのアクアとカミキが対峙するシーンなのだが、
アクアはかつてのアイ同様腹部をしっかり刺されたのに
そこから何kmと離れたビルの屋上まで特に説明もなくいつの間にか移動していたり、
カミキがルビーを直接殺そうと動いている一連の流れは、
第三者に言葉を交えて間接的に殺害することを生きがいとする、
カミキの「殺人教唆」が全くない展開となっていることが特に気になった。
まぁ、片寄ゆらも崖から突き落とした疑惑があるから直接手を下さないとは
限らないのかもしれないが、あれはどっちなのか分からんからなぁ?
もっとも、原作のあんまりな結末に比べればこの辺りのツッコミどころなぞ些細な問題であり、
自分としては許容範囲の改変。ドラマ版の「東京ブレイド」の凄まじさに比べれば大したことはない。
前述通りドラマ版の時点で好印象ではあったが、本作も第一印象から良い意味で裏切った内容となっていて、
原作よりも納得できる着地であったというだけで満足度の高い良作実写映画だったと自分は評価する。
「推しの子」という作品に興味があるなら、ここを入口にするのも全然ありなのかもしれない。
間の話が気になるならアマプラで続きをどうぞ!でいいだろうし。
しかし、原作読み終わっていたたまれない気持ちになったあまり「アニメ版は結末を改変してくれ」って訴えていたら、
その前に実写版の方でそれをやってのけた上に面白くなっていたとは、恐れ入りました。
新年から良い映画が見られて満足できた。願わくば、アニメ版もこのような形の着地で原作より納得できる展開に期待したい。
次の映画は、「ベルサイユのばら」(1/31公開)
「ヒプノシスマイク」or「仮面ライダーガッチャードGRADUATIONS」(2/21公開)のいずれかを見に行く予定。