SIN Vol.8 Webアニメ「アイドルランドプリパラ」を見た

 

 先に断ると、自分は現在展開されているアプリ版「アイドルランドプリパラ」には非常に否定的な人間である。
遡ること約4年前の2021年、アプリとアニメで連動して展開すると発表のあった本作で同年リリース予定とのことであった。
が、実際のアプリ版はリリースまで約2年後の2023年まで年月が過ぎ回数にしては実に5回という延期の告知があった異常さから開発状況のヤバさを物語っていた。おまけにリリース開始直後は不具合が多発するという見切り発車ぶり。
トドメを刺さんと言わんばかりに、アニメ版は全13話中第4話以降はアプリ版の有料課金者限定コンテンツという有様で、アニメからアプリに入るかもしれないというユーザーすらも門前払いにしていた。
ことごとくユーザーを舐め腐った運営側の傲慢さしか見えず、プリパラシリーズ全体への不信感へと繋がっていた。
アプリ版もリリース当初こそ遊んだもののもう二度と遊びたいとは思っていない。
ハッキリ言って絶対に許さない気持ちでファンとしては憤りを感じている。


…たが、一つだけ南みれぃが言う所の「計算外ぷり」と思わせられる要素があった。
それが今回まとめるアニメ版「アイドルランドプリパラ」である。
こちらはアプリ版の延期とはほぼ無関係で、当初のリリース通り2021年に第1話と第0話(事実上の第2話)がYoutubeにて無料配信されていた。
その後第3話まではYoutubeで無料配信されていて自分は視聴していたのだが、続きが気になると思わせられるくらいに面白かったのだ。
前述通り残念ながら第4話以降はアプリの有料課金コンテンツとなってしまい、こんなコンテンツにお金なんて落としてたまるかと続きを見たい気持ちにはならなかった。
以上が2023年の8月までの出来事だったのだが、約1年半後の先週に突如転機が訪れた。

アプリはどうでもいいけど、1話見て最高の掴みでプリパラ帰ってきた…!って感動したのに、続きは課金してね!で一気に興味失せたんだがやっと見られるようになったのか。 プロモーションが最悪だった悪印象が拭えずで見ようかめっちゃ迷うわ。 www.famitsu.com/article/2025...

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— YUNO (@5thyunororo.bsky.social) 2025年1月18日 9:40

 

プリパラ10周年イベント開催を記念して、本作の全話期間限定一挙配信がされることになったのだ。
これはチャンスと言わんばかりに、全話一気に視聴する運びとなった。

(ここからはアニメ本編のネタバレをガッツリ語ります)

結論から感想を述べると、アプリ版の存在が足を引っ張りさえしなければ、間違いなく満点であろう完成された名作だった。

まず、前作「アイドルタイムプリパラ」には大きな不満が残った消化不良すぎる作品というのが自分の総評だった。
一新した舞台で新キャラがどんどん増えていき当然新キャラ中心の内容で優遇されているのに対して、一部(主人公続投のらぁらやガァルマゲドン)を除いて、新キャラでしかほぼライブパートが構成されていなかったことで露骨に冷遇を受けている旧作のメインキャラたちや、新主人公ゆいの提唱する「ゆめかわ」という概念の宗教的にも見えるおぞましさすら感じる悪い意味での最悪なオチ等、大きく挙げるとこの辺りが自分は特に受け付けなかった。

対する本作は、まず本作の作劇上で重要なメインの新キャラは「あまり」と「マリオ」の二人しかいない。
新キャララッシュで優遇不遇の出がちな本シリーズにおいては珍しく、どちらもしっかり活躍して冷遇されているような要素も全くない。何より本作におけるこの二人のドラマは、始まりから着地まで丁寧で物語のテーマ性とも完全に合致していた。
前作のような人を選ぶ要素も全然なく、第1期を彷彿とさせられる起承転結がきちんと成立した作劇で間違いない。

本作のテーマは「忘れた思い出と向き合うこと」だと自分は解釈している。
プリパラというテーマパークが現実世界から隔絶され、プリパラを忘れたあの日アイドルであった子達に、プリパラは戻ってきたと思い出させるための戦い。2018年に一旦展開は終了してから「プリチャン」→「プリマジ」→「アイプリ」と後輩作品が続いていく中、もう一度プリパラと向き合うという話は現実世界の位置づけともしっかりリンクしていて、「あまり」はかつてプリパラが大好きだった女児たちを代表するキャラ、と捉えることが出来る。
また、あまりは本作のキャラとしては珍しく、「地味すぎてクラスで目立たない=余っている」「中二病による最強キャラクターを考え出す創作が趣味」「コミュニケーション障害で人と上手く会話ができない」等、現実的で地味目なキャラ付けがなされている。
マリオに関しても、創作を現在進行形で趣味としている自分には非常に刺さる設定の存在だった。
要するにあまりにおける黒歴史の象徴なのだが、あまりがマリオのことを否定したり忘れようとしたりすると、プリパラから消滅してしまう危険性を孕んでいる。この設定が「忘れた思い出と向き合うこと」という本作のテーマと完全に合致している。あまりがマリオと真っすぐに向き合った終着点は、プリパラシリーズらしいこれまでの集大成と言える終着点の描き方で感動的。第11話の挿入歌である「究極合神アマリオン—破滅と想像の狂想曲—」は本作で一番好きな新曲で間違いない。しかも、前作まではこの集大成による終着点を3クール以上かけて行っていたことで得られた感動を、本作ではわずか1クールで完遂させているところも素晴らしかった。深夜アニメ・アイドルアニメにおけるお手本のような作品構成だったと評価できる。

他にも、前作で新曲やライブパートを与えられなかった一部のユニットには完全新規のライズステージが描写されていた。
プリパラシリーズは、アニメ放送の展開が終わった後もライブイベントを積極的に開いたりしていたことで多くの新曲がリリースされている。
本作の旧作からの続投キャラのライブシーンはこのアニメ放送終了後にリリースされた新曲を使ったライブがほとんどである。ファンからすれば悲願とも思えるライブシーンの数々でもあった。
個人的には、前作の最終回でユニット結成だけされて曲が与えられることのなかった、第8話のしゅうか・ミミ子・ガァララによるユニット「エヴァーゴールド」の新曲「リーブ・トゥ・ザ・ゴールデン・イヤー!!!」が一番衝撃だった。
特にミミ子に関しては、ゲーム版でも実装されていないアニメオリジナルのモブキャラ枠であるにもかかわらず、第3期のちゃん子に続くモブキャラ枠のCG化という快挙を達成している。これはライバルであるアイカツでは全く見られない特徴で、どんな子でもアイドルになれるプリパラという作品の作風に合致した仕様で自分の中では非常に好きな要素の1つだ。

地味な所では、前作で廃止されていた「プリパラ入場前と入場後のビジュアルがシルエットになっていて、回転して切り替わる」アイキャッチ演出の復活も良かった。
本作はWebアニメとしての展開であり本来であれば必要のない演出であるにも関わらずあえて復活しているので、もしかしたらテレビ放送も視野に入れているようにも思えた。ただし、あまりだけしかなかったので他のキャラも見たかった。

難点としては、前作までの全シリーズの視聴を前提とした作品設計であることと、触れられる媒体が考えられる限りで一番最低最悪な形であることだろう。
前者に関してはそもそもシリーズファンに向けた作品であるので全く問題ではないが、200話近くある作品を見た上で触れるとなると、これから新規で入るのが非常に厳しい作品なのも事実なのであえて挙げた。
後者に関しては、こんなに面白いのに何であんな不出来なアプリを遊ばされた上に有料課金なんてしないといけないんだという思わせられるに尽きる。自分のようにアプリを遊ばずとも全く気にせず楽しめたし、今回のような無料配信を継続的に行えば「アニメだけでもとりあえず見たい」と思ったファンが、もしかしたらアプリ版を始めてくれるかもしれない。このような形で販促的な使い方をすればいいものの、小賢しいアプリプレイ必須による景品のような扱いなのが本当に気に食わない。
ゲームの内容と関係のない内容物をアプリ内で課金させようという企業姿勢は、あまりにもどうしようもなさすぎる。

以上のように、自分は本作の内容面での不満は全くない。内容外のいらない要素に批判的なだけである。
本作は媒体は全く異なれど、作品から受けた感動は「アイカツ!10th story~未来へのSTAY WAY~」とほぼ一緒だ。人気シリーズの久々の新作として満点ともいえる出来だと感じた。かつてのシリーズファンにも間違いなくイチオシできる作品ではあるが、やはり触れるハードルが高すぎるのは事実なので、布教しづらいのが勿体なさすぎる。
最後に、ただの足かせでしかないアプリ版はサービス終了して頂いて、本作が気軽に視聴できるような環境が出来上がることを強く願っている。それだけ素晴らしい作品だったのは間違いない。

2025年01月26日